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OAC 社団法人 日本広告制作協会
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■『デザインのための紙・印刷・加工の講座2008』
  第四回「特殊加工/折・裁・貼・箔」

日 時 2008年7月18日(金)
会 場 錦明印刷

第四回の『デザインのための紙・印刷・加工の講座2008』は「特殊加工2部作」と呼ぶべき企画の後編にあたります。難度の高い製本技術と、特別な質感・効果をもたらす箔押し、このふたつが今回のテーマとなりました。2008年7月18日(金)の午前中に、いつものように錦明印刷セミナールームに集合して座学を終えた後、午後は都内墨田区の町工場にお邪魔しました。本講座の目玉は「普段見ることのない現場をみる」こと。今回の工場見学も興味深いものとなりました。

午前最初の講義は、カタニ産業株式会社東京支店の浅田大祐氏にお願いしました。
カタニ産業は明治32年に金沢で金箔製造業としてスタートした歴史の長い会社です。取り扱う箔やフィルムは、紙モノにとどまらず、家電、自動車、携帯電話、化粧品など、さまざまな製品の「ステイタス」をアップさせるために使用されています。浅田氏がひととおおりの商品説明を終えた後、質問に応えていただくかたちで「箔」への理解を深めます。

続いて、有限会社中村断截所の中村健一氏より製本についてのお話をいただきました。ご承知のように印刷産業の現在は、右肩上がりの業界とは言えません。そして、製品を大量・安価・良質に提供する役割は、すでに海外にシフトしつつあります。そんな環境のなかで東京の町工場が生き残ってゆくためには、どうしたらよいのか?中村氏の結論は「付加価値の高い仕事をする」であり、そのための手段は「他人にできないことをやる」ことです。

折り加工について曰く、
「よそは4回くらいしか折れませんけれど、ウチはもっとたくさん折れます」
封書加工について曰く
「DMの封筒は開封後邪魔になります、無いと喜ばれる。だからチラシそのものを封筒にしたんです」
「封筒を開くときもカンタンならうれしい、だからファスナーで開きます」
製本について曰く
「自治体の仕事では環境対応がよろこばれる。だからこの製本では針を使いません」などなど。

午後の見学はこの中村断截所の加工技術を見せていただくところからスタートしました。
複数のページを折りたたんだのち、外側を接着でとじる封筒型のパンフレットや、小口のインデックスを型抜きで栞のようにすることで検索性を高めた学校教材などが加工される様子を拝見しました。
興味深いサンプルとしては「両観音」をさらにもういちど内側に折り込み、パタパタと開く楽しみを味わえるパンフレット、9回!も折り畳まれた小さなおみくじの札、「エコとじ」という針をつかわない製本技術でつくられた小冊子。実際に加工する様子を見せていただきたいものばかりでした。
工程のひとつひとつは、截ち・折り・貼り等のふつうで当たり前の技術なのですが、工程全体として「他所にできないこと」が成立しています。…私たちの仕事の進め方のヒントにもなりそうです。

次に中村氏にご紹介いただき、箔押し加工の現場として「秋山箔押工芸株式会社」を見学させていただきました。
秋山箔押工芸は昭和40年に創業した墨田区緑の箔押し屋さんです。
カタニ産業 浅田氏に説明していただいた「箔」の実例です。ホットスタンプと呼ばれる、熱と圧を加えて転写するタイプの箔押しを中心に、浮き出し、空押しの作業を見学させていただきました。サンプルの品々には、わたしたちがよく見知っている高級なブランドや高額な商品が数多く見受けられます。逆に言えば、付加価値が高いということを姿かたちで表現するための方法として、箔押しはとても有効だ、ということでしょう。

中村断截所も秋山箔押工芸も、どちらも私たち制作会社との接点を持ちたいと発言されていました。一面では、紙の厚みを考慮していないデータを納品してくるデジタル世代のデザイナー達に、内側の折りの小口の文字が切れてしまう「加工の実際」を知ってほしい、という現実もあります。
しかし、それ以上に私たちとのチャンネルをひらくことで、現場の加工技術と制作会社の着想、この合わせワザで良い仕事をすることが出来ないか?という希望をお持ちです。ご興味のある方はいちど連絡を取ってみてはいかがでしょうか?

「都内の小さな町工場が生き残っていくには高付加価値を追求することだ」
中村氏のこのコトバになにやら共感を覚えてしまいました。(宇田)


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