THE ORGANIZATION OF ADVERTISING CREATION
OAC 社団法人 日本広告制作協会
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■2012年度 第2回「Webビズ研」開催報告

Co-Creative時代の企画・ディレクション
〜クライアントと共に考え・つくる協調型プロジェクト〜
日 時 2012年12月5日(水)16:15〜18:40
会 場 キヤノンマーケティングジャパン(株)セミナールーム
講 師 阿部淳也 氏/(株)ワンパク 代表取締役・クリエイティブディレクター
主 催 公益社団法人 日本広告制作協会(OAC)
協 力 キヤノンマーケティングジャパン(株)、(株)Too、(株)イマジカデジタルスケープ、(株)ワンパク、社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会
○出席者数:44名

今年度のOAC「Webビズ研」のテーマは“コンテンツ中心主義”!モノが売れなくなった、広告が効かなくなった、といわれて久しい昨今。クライアントの課題を解決するためのコミュニケーション戦略の主幹をなすWebコンテンツをどうやって制作していけばいいのか?それを、みんなで一緒に考える機会として、今最も注目されるデジタルエージェンシー「ワンパク」の代表取締役でありクリエイティブディレクターの阿部淳也さんを講師に迎えて“ワンパク式・協調型プロジェクト”のノウハウを語っていただきました。


1.これからのデジタルコミュニケーションの考え方
これまで広告業界が盛んに行ってきた“消費される広告キャンペーン”や“カタログ的なオウンドメディア”は、今後、「生活者の便益につながるもの」「生活者との関係性構築につながるもの」といった、新たなサービスや付加価値の提供へシフトしていかざるをえない、と阿部さん。
これからのデジタルコミュニケーション開発において重要なポイントは(1)REALITY、(2)BIG IDEA、(3)CO-CREATIVE、(4)TECHNOLOGY であると提言。事例として、スキー場を丸ごとソーシャル化してユーザー発信型の集客に成功した「EPIC MIX」などを挙げて世界的なトレンドを紹介。
そして私たちがWeb制作において意識しなくてはならないキーワードとして、認識を変えるのではなく、現実を変えることが重要。

と阿部さんは言い切る。


2.コミュニケーションデザインの重要性
文化もライフスタイルも多様化した今、当然だがメディアも多様化している。企業のコミュニケーションも、これまでの「画一的・一方通行」→「多彩・双方向」に変化すべき。企業や団体は、いかに生活者と向き合い関係性を築いていくかを考えなくてはならない。
ターゲット論もしかり。もはや世代や性別などのデモグラのみでセグメント化する時代は終わりつつある。
これからのコミュニケーションでは、生活者のシナリオやシチュエーションを踏まえてタッチポイントやチャネルも設計していく必要がある。さらに、ユーザーがそのサービスを利用する理由はどこにあるのか?ユーザーにどのような体験を提供し、どのような価値を感じてもらえるのかを検討する必要がある。とのこと。

トータルなユーザー体験を設計する。
それによってユーザーが得られるものは何か?


世の中には常に多くの競合があり、いかに継続的に商品やサービスを使い続けてもらい、ファンになってもらうのか?それを考えていくことが重要、と阿部さんの弁にも熱が入る。

3.デジタルデバイスの変化と留意点
主に「iPhone」と「Android」という2強の戦いになっているスマートフォン市場。
スマートフォンやOSのグローバルなシェアと国内のシェアを比較するなど、国によってそのトレンドや普及状況が違うことを指摘。もっと世界へ目を向けていきましょうと提言。


4.Webサイト制作の流れと協調型プロジェクト
Webサイトは構造的なもの。レイヤー1「戦略・施策の検討」、レイヤー2「機能要件・コンテンツ要件」、レイヤー3「情報構造の設計」、レイヤー4「画面構成・インタラクション」、レイヤー5「ビジュアルデザイン」という階層になっており、下の階層から、ひとつひとつフィックスして積み上げていく必要がある。(したがって、進捗の際、下の階層の変更は大幅に手戻りが発生する原因となり、リスクが高まる)

Webサイト構築のプロジェクトは、「アウトライン企画」→「プロジェクト計画」→「戦略・施策策定」→「要件定義」→「設計」→「開発・テスト」→「検収テスト」→「カットオーバー」というステップで進められる。ワンパクでは、この要件定義フェーズの完了までは、プロジェクトマネージャー(PM)とプロジェクトメンバーによるミーティングで進行していく。
プロジェクトメンバー全員でディスカッションを行い「その場で合意形成し、次回ミーティングへと進めていく」この ディスカッション&コミットメントがプロジェクトで最も大切な部分である。

プロジェクトはクライアント側のメンバーも含めてのものであるという意識をつくり、ドキュメントを作成するのが目的ではなく、要件の合意を形成するのが目的。
だから、プロジェクトの進め方は、メンバー全員によるワークショップ方式。として、要件決定までのプロセスを見える化する。



5.プロジェクトデザイン=プロジェクトの見える化

そもそもプロジェクトって何?
誰のもの?何故やるの?


その問いに対して阿部さんの回答は、
プロジェクトはクライアントのビジネスの課題を解決するための期限とゴールを設定し、それにひもづく成果物などをつくる取り組みと単位である。 プロジェクトマネジメントとはゴールに導くための手段や手法を用いて管理する行為をいう。
と明確。ポイントとしては、クライアントと制作会社が一緒に考えましょう! 一緒にやりましょう!というスタンス。

プロジェクトとは設計(デザイン)するものである
=タスクとプロセスの見える化


プロジェクトを設計するまえに不明点を明確にしておくことが大切
◎プロジェクトの目的
◎達成すべきゴール
◎スケジュール、制作物など
◎効果指標(KPI)、測定方法
◎クライアント内部の体制
◎企業のコンプライアンスなどの制約
◎インフラ(サーバ、システムなど)
◎運用体制・サポートなど
※よくクライアントから「SEO対策がしたい」「SNSを使いたい」など 目的として出てくることがあるが、これらは手段であり目的ではないので注意が必要。

プロジェクトを設計するときに必要となることは何を、誰が(誰と)、いつまでに、いくらかけて、どのように進めていくか

WBS(Work Breakdown Structure)とガントチャートというプロジェクトの設計図をつくることでスコープが明確になる

ここで実際にワンパクの案件で阿部さんが作成したWBSを見せながら解説。
プロジェクトの最初の段階では80項目程度のタスクだったのが、終了時には約160項目のタスクになっていた。(この事例からもWBSを作成していれば、かかったコストの増加分の正当性が証明できるとのこと)

WBS作成のメリット
(1)どんなタスクがあるか明確になる
(2)各タスクをいつまでに終わらせる必要があるか明確になる
(3)各タスクの依存関係が明確になる
(4)クリティカルパス・マイルストンが明確になる
(5)タスクに対応するメンバーのアサインが明確になる
(6)予算感、コスト感が明確になる
(7)全体のスケジュールに無理がないか明確になる

WBS作成はプロジェクト成功への一歩であり礎である。
クライアントの信頼を獲得する上でも大いに役立つ。


プロジェクトの体制をつくる
Web構築プロジェクトはさまざまな知識や技術が必要であるだけでなく、多くのタスクとプロセスを管理しながら進めなければならない。そのため、どんな体制にするかがプロジェクトの成功を左右する要因になる。

プロジェクトの計画のスコープに基づいて、バランスを考えた体制をつくる必要がある。
●アウトプット品質
●リソース
●予算・スケジュール

このあと、阿部さんよりデジタル・インタラクティブ制作における実際の職種の紹介や、小規模なプロジェクトの体制のメリット・デメリット、大規模なプロジェクトの体制のメリット・デメリットの紹介があり、講演を終えた。


質疑・応答
阿部さんの講演が終わり質疑・応答の時間になると、多数の参加者から活発な質問が寄せられた。概略を以下に紹介すると…

〈質問1〉
プロジェクトの進め方で「座り方を工夫する」と言われたが、どんな工夫をすればいいのか?

〈阿部さんの答え〉
プロジェクト・グランドルールを作る!例えば座り方なら「着た順番に座る」、メールの送り方なら「挨拶を簡略化して送る」、プロジェクトの呼び名は「コード名を決めておく」といった具合に。プロジェクトに関わるみんなが気持ちよく「良かったね!」と言えるやり方をクライアントと一緒に考えていくことが大切。

〈質問2〉
ワンパクさんの1案件あたりの平均バジェットは?

〈阿部さんの答え〉
ピンキリ。大きなプロジェクトもあれば、小さなものもある。ただ、プロジェクトの規模に関わらず、WBSはすべての案件で作成する。それを見積書とセットにして提出している。

〈質問3〉
協調型プロジェクトを進めるうえで、ファシリテーションが非常に重要だと感じたが、スタッフの教育はどうしているのか?

〈阿部さんの答え〉
ワンパクでは、1案件に必ず「プライマリー」と「セカンダリー」の2人のディレクターを立てる。習うより、慣れろ!ビジネスの現場で実際に「見せて」「聞かせて」「やらせて」これを繰り返すことによって人材は育つ。

〈質問4〉
見積書を提出するときにWBSとセットで出すとのことだが、サイトマップも一緒に出す必要はないのか?

〈阿部さんの答え〉
ワンパクでは、サイトマップを作ってもそれは見積りの基準にはならないので、出していない。クライアントによってサイトマップが見積書の説得材料になるようなら一緒に提出すればいい。

〈質問5〉
Web制作においてシステムを開発する必要性が出てくるが、外注制作をする場合のディレクション体制はどうやっているのか?

〈阿部さんの答え〉
Web制作のディレクターならばエンジニア系の知識は不可欠。アウトプットする場合にはディレクター自身が「何を」「どこまで」お願いするのか、的確に判断できることが重要。そういう人材を育成していかなければならない。



最後に
「クライアントと制作会社が対峙するのではなく、プロジェクトでは“みんなが気持ちよく良かったね!”と言えるような進め方を一緒に考えましょう」という阿部さんの言葉が印象的だった。
「コミュニケーションの仕事をしている僕ら制作者が、コミュニケーションを上手に出来ない、というのが一番悲しいこと」とも。日頃からどんどん周囲とコミュニケーションをとっていくことが大切、と阿部さん。
講演の最後に「みんなで良いコミュニケーションをして、みんなでWeb制作業界を盛り上げていきましょう!私たち自身がハッピーになりましょう!」と阿部さんからメッセージをいただき、会場から盛大な拍手が起こって好評のうちにセミナーが終了した。

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